[Homeland ブランドストーリーvol.1]

Homelandのはじまり

Column・2022.06.26

「Homeland」は、「使い勝手がよく、長く使いたくなるキッチンツール」をコンセプトに、日本各地の作り手たちと共同で開発しているアスプルンドのオリジナルブランドです。そのもの作りは、全国各地の工場を訪ね、それぞれの専門分野で技術を磨き続けてきた職人たちと対話を重ねることから始まります。ブランド開発の中心となっている「stillwater」の玉置純子さん、アスプルンドの永井辰玖、高橋麻子が、ブランドに込めた思いをお話しします。

長く使える良いものを 日本の工場で作りたかった

土鍋のサンプルの山
開発中商品

-まず、ブランド立ち上げの経緯を教えてください。

 永井 私たちの「アスプルンド」という会社は、大まかに言えば「海外で素敵な商品を見つけてきて、日本に紹介する」、「日本で発想したものを、東南アジアで生産する」という2つの軸で商売をしてきた会社です。私自身、そのような仕事に長年関わってきたわけですが、実はもう10年以上前から、「日本でもの作りをしたい」と考えるようになっていました。日本はどこを見ても良いものに溢れていますし、もの作りが上手な国です。その思いは、オーガニックなものが支持されたり、サステナブルという考え方が浸透する世の中になっていくにつれ、さらに強くなっていきました。そんなときに出会ったのが、「stillwater」の玉置純子さんです。 

玉置 「stillwater」は、文化、食、アートといった切り口から、さまざまな企業や団体のブランディングや企画のお手伝いをしている会社です。もともとは私たちが手がけているオーガニック商品をアスプルンドさんで売っていただきたくてご相談に伺ったことがきっかけですが、結果的には全然別のお仕事でご一緒することになりました(笑)。

永井 そうでしたね(笑)。でもどうしても、このもの作りの仕事で玉置さんのお力を借りたくて。私たちはたくさんの商品を扱って売ってはきたけれど、実際に日本国内でものを作ったことはほとんどありません。いっぽう「stillwater」さんや、玉置さんの今までの仕事を拝見すると、もの作り、中でも「食」に関するもの作りに関して、とても良いパートナーになっていただけるのではないかと思ったんです。また、この事業には絶対に女性の感性が必要なこと、それに日本の工場さんの良いところを最大限に引き出せるのも玉置さんなのではないかと思い、お声がけしたんです。

玉置 ありがとうございます(笑)。ただ、実はもの作りに関しては、私たちもそこまで経験が豊富なわけではなくて。私がいる「stillwater」という会社では、クライアントさんの商品のコンセプトを決めて開発をしたり、ブランディングをしたりという仕事でもの作りのお手伝いはしてきていたのですが、実際に自分たちが一からものを作り出すという仕事は、実は初めてだったんですね。それでも永井さんから「キッチンツール」という言葉が出て、しかも「メイドインジャパンでやりたい」と言われ、会社のメンバーにも相談しました。それで話し合ったところ、みんな食べることが大好きですし、旅も好き。今まで日本各地を取材して歩いたことも役に立つのではないかということで、「それはやりたい仕事だね!」ということになりました。

髙橋 ありがたいことですね。

玉置 それに私たち、今はもう当たり前に口にされる言葉ですが、「サステナブル」ということについてはずっと考えていたんです。ものが溢れている世の中で、どうしたら使い捨てを減らしたり、環境に良いことをできるか…。その結論としては、「結局、気に入ったものは長く使うよね」ということ。シンプルなのですが、自分たちがとても好きなものを作れば、なるべく長く使おうとするし、よほどのことがない限り捨てない、ということに思い至りまして。ですからこれは、私たちが徹底的に好きなものを作らせてもらう機会としても、ぜひ取り組みたいと思ったのです。

永井 「ものが溢れている」というのは私たちの共通の認識ですね。その中で、いかに飽きずに長く使える良いものを作り出せるか。その挑戦が「Homeland」という事業なのです。

デザイナーは不在!

日本各地の工場の歴史や 技術を掘り起こしています

stillwaterのオフィスはHomelandのショールームのよう。

-「Homeland」のコンセプトについて教えてください。

 玉置 まず、大切にしているのは、「Homeland」のキッチンツールは、「キッチンと食卓をつなぐもの」という考え方です。キッチンの中だけで使うのではなく、それを食卓に持っていっても使えたり、サマになったりするアイテムであることを意識しています。例えば「Homeland」では信楽焼の土鍋を扱っていますが、キッチンでお米を炊いた土鍋は、そのまま食卓に乗せれば見た目も楽しいですし、炊いたご飯は本当に美味しい。こんな土鍋がきっかけになって、食事の時間が今までより楽しみになったり、豊かなものになったりしたら、それが私たちが「一番やりたいこと」なんです。ただ、そのためには本当に使い勝手がよいものを作らなければならなくて…。そう思ったとき、私たちは長年リスペクトしている、日本の作り手さんたちのお力をお借りしたいと思ったんです。だから「Homeland」は「デザイナー不在」のブランドなんです。これを言うとよく驚かれるのですが(笑)。

 髙橋 ブランドを作る場合、多くはプロダクトデザイナーを立てて設計図を書いてもらい、それに従って工場さんに作ってもらう、という形ですよね。

 玉置 そうなんです。でも私たちはそれをしていません。その代わりに何をするかというと、「このアイテムを作るならここだ」と思ったメーカーさん(工場さん、生産者さん)と徹底的に話をして、その方たちの歴史や、彼らが持っている知識や技術、経験をお伺いするんです。すると、「こういうものが得意で人気だったけれど、今は発注がなくなっちゃったんだよね」とか、「こんな技術があるけれど、発注量が少ないとできないんだよね」ということがわかってくる。日本のメーカーさんには、それぞれに眠れる宝のような技術や経験の蓄積がたくさんあるんです。そこで私たちは、そんなその方たちが持っている「既にある良いもの」をベースに、今の気分に合わせて色を変えたり、大きさを変えたりとアレンジしていくというようなやり方をしているんです。

 永井 今の時代はものが溢れていますから、良いものやカッコいいものって、すでにたくさんあるんですよ。ただ、次から次へと新しいものが作られる中で、忘れられていたり、失われていたりするものもたくさんある。私たちはそれを一つずつ掘り起こしているような感じですね。「Homeland」のほとんどの商品はそうやって作っています。このようなやり方は、メーカーの生産者さんたちも喜んでくださっているようで…。先日、とあるライフスタイルの展示会で、ちょうど今一緒にカトラリーを作ろうとしているメーカーさんにお会いしたんです。それでご挨拶したときに「このような取り組みで、私たちのところに声をかけてくれてありがとうございます」とおっしゃるのです。詳しくお伺いすると、工場のみなさんは昔からの型を再び使えること…まぁ、いろいろ組み合わせて少し違う型には変わるのですが、それでも自分たちの歴史でもある鋳型を再び使える、かつての仕事を再現できるかもしれないことが嬉しいし、楽しいと。「今、作り直した型を磨いているので、もう少し待っていてくださいね」とおっしゃるので、私も「ぜひ頑張りましょうね」とお返しして別れたのですが、とても嬉しく思いました。

 

ーvol.2へ続く