魚介とハーブの
おいしい関係①
おいしい関係①
料理のプロで活躍する料理家のご自宅やアトリエにはどんなこだわりが潜んでいるのでしょう。実際にお邪魔してその秘密をご紹介します。第1回目は「Food Letter」を主宰する橋本彩子さん。築地市場や豊洲市場に足を運んで食材選びをするので市場通の料理家として知られ、旬にこだわった美しい料理に心奪われます。
橋本さんのアトリエは築地市場近くのオフィス街の一角にあります。この辺りは下町情緒が漂いながらも、おしゃれなカフェが点在しているエリア。駅からアトリエまでの地図に従って細い路地を進んでいくと、とある雑居ビルの入り口に「Food Letter」と書かれた看板を発見!橋本さんがドアを開けて迎え入れてくれました。一歩足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのはゴッホの壁紙。食器棚にはお気に入りの食器が積み重ねられ、アトリエの空間づくりに一役買っています。「下町の雰囲気に馴染む空間にしたかったので、できるものは自分でDIYをやったんですよ」と橋本さん。このアトリエには橋本さんのこだわりが随所にしっかり詰め込まれているようです。
「1人目の女性は誰しも同じかもしれませんが、母です。毎年欠かさず、梅干しや梅酒、ぬか漬けなどの季節の仕事をきちんとやっていました。そして2人目の女性は、母の友人のおばさんです。その方が作る料理は当時の私にはとてもモダンに見えました。たとえばマリネ。魚介と夏野菜をふんだんに使ってガラスの大きな器に盛られていて、彩り豊かでとても印象的でした。さらにティータイムで出てくるマドレーヌはまるでお店やさんのよう。プロが使う敷紙で焼いたものを、かごに入れて出してくれました。ていねいな食仕事をする母とモダンな料理やお菓子を作る母の友人。この2人の女性から学んだことが私を料理の道へ導いてくれました」と橋本さん。
その後、短大を卒業して迷わず食品関係の仕事についたそう。なかでも、ケータリングとフードデザインの会社では、展覧会やハイブランドのパーティーでイメージに合った料理をつくる仕事だったので、これに全力を注いだといいます。「右も左も分からない中、無我夢中でしたね。これでいいんだろうか、と疑心暗鬼になることもしばしば。一つひとつ乗り越えるたびにたくさんの学びがありました」。やがて独立して結婚。今度は子育てをしながら、雑誌や広告などの仕事をすることで料理のさらなるステップアップを続け、料理家としての腕を磨いてきました。
20年近く料理の仕事を続けていると、自分のアトリエが欲しい! という思いがどんどん膨らんできました。しかし子供が小さいとなかなか家をあけられず、そんな現実から抜け出すことは夢のまた夢でした。「子供が少し手が離れたので、今だ!って一念発起したんです。ずっと思い続けてきた夢を実現できるチャンスがやってきたんです」と声を高鳴らせる橋本さん。とはいえ、何もかもとんとん拍子にはいきません。なかなか理想の物件に出会えなくてモヤモヤが募るばかり。そんなとき、友人に誘われて料理の神さまがいるという高家神社(千葉・南房総市)に参拝し、「どうかいい物件が見つかりますように!」と神頼みをしたのです。するとー、なんと3日後に不動産屋さんから今の物件を紹介され、「これぞ料理の神様パワーだ!(笑)と、即決しましたよ」。
魚料理とご飯をワンプレートに盛って、味も見た目も食欲をそそる料理に仕上げました。ちなみにここで使ったさばの文化干は、築地場外市場の橋本さんが行きつけの魚屋さんで購入したそう。市場の魚屋さんは昔から現在まで蝋引きの袋に入れたり、新聞紙に包むだけなので環境にもやさしいですね。
材料(2人分)
さばの文化干(塩さばでもOK) 半身1枚
新じゃがいも 2個
タイム 3枝ほど
オリーブ油(EX.) 大さじ2〜3
レモン 適量
①さばは3〜4等分に切る。じゃがいもは皮をよく洗いそのまま4〜5㎜厚さに切り、さっと洗って、ペーパータオルで水けを拭き取る。
☑︎𝗣𝗼𝗶𝗻𝘁 さばは冷凍されたものがおすすめ。臭みが出にくく、皮目もパリッと焼けます。
②鉄製のフライパン(または天板にオーブンシートを敷く)に、さば、じゃがいも、タイムの順にのせ、オリーブ油を回しかける(写真)。
③250℃に予熱したオーブンで、約20分焼く。お好みでレモンを絞っていただく。
材料(作りやすい分量)
米 2.5合
水 460㎖
にんじん 1/2本
タイム 4〜5本
バター(有塩) 15g
①米は洗ってざるに上げ、15分ほど水けをきる。にんじんはしりしり器(スライサーやチーズおろしでもOK)ですり下ろす。
②土鍋に米、水、にんじん、タイムを順に入れ、30分ほど浸水させる。
③②を強火にかけ、吹いてきたら弱火にして13分炊く。最後に10秒ほど強めの中火にかけて火を止め、10分蒸らす。
④ふたをあけてバターをのせ(写真)、再びふたをして10分蒸らす。
⑤タイムを取り除き、全体を切るように混ぜて器に盛る。
料理家・栄養士。『FOOD LETTER(フードレター)』主宰。短大を卒業後、食品メーカーに勤務。その後、ケータリング&フードユニット『CUEL(キュール)』に7年間在籍後、独立。『ル・コルドンブルー』でフランス料理の基礎を学ぶ。食材のおいしさと彩りあふれる美しい盛りつけに定評がある。現在はおもに雑誌や広告などのフードスタイリングで活躍中。2022年、東京・新富町にアトリエをオープンし、料理教室、プライベートレストラン(現在は紹介制)など、精力的に活動中。
【料理教室のご案内】
橋本さんの料理教室では生徒さんを随時募集しています。詳しくは、インスタグラム@saiko_hashimotoをフォローの上、DMにてメッセージをお送りください。プライベートレッスンは3名から受け付けております。
撮影/川上輝明(bean)、上端春菜(bean)
アートディレクション・文/小橋太郎(Yep)