「扱いやすさ」が優先される今、 本物の漆器は使いにくい?
みなさんは「漆器」に対してどんなイメージをお持ちでしょうか。
日本古来からの伝統工芸品である「漆器」は本来、木や紙などに漆(うるし)を塗り重ねて作る、手のかかる工芸品。ただ最近では、「漆風」に仕上げた樹脂製製品までをまとめて「漆器」と呼ぶことが多くなっています。
それらは本物の「漆器」ではありませんが、見た目には日本らしい美しさがありますし、素地にはリサイクルプラスティックを使ったものもあるなど、環境に配慮して作られたものも多くあります。また、「(家具などにも使われる)ウレタン塗装」の木製品なら、木目の美しさを残しつつ人体への影響も少ないなど、より多くのメリットを持っています。さらに最近では「ガラスコーティング」「シリコン塗装」「抗菌加工」など、新たな技術が登場し、「木製であっても食洗機で洗える」「より清潔に使える」といった新アイテムも続々と生まれています。
見た目も使い勝手もよく、環境にも配慮している、それでいて価格も手頃…。そんな商品は、まさに「現代の生活に寄り添った道具」に違いありません。
私が以前仕事で訪れた事のある漆器の産地でも、「漆風」に仕上げられた樹脂製の器やランチボックスなどの商品が主力品のひとつになっていました。本物の漆塗りの器は高価である上、取り扱いや手入れが大変。それなら、現代の生活に即した「漆風」のもので十分。
「本物の漆の食器は、もう気軽に買えるものではないのかもしれない…」
私自身、その頃はそう思っていました。
「Homeland」開発チームの思わぬ出会いから生まれた 本漆の汁椀
漆の器づくりにはなかなか手が出ないものの、「Homeland」の開発チームは、「漆の箸作り」には取り組んでいました。その仕事のために福井県を訪れていたとき、思わぬ出会いに恵まれました。
たまたま2時間ほどの空き時間ができたとき、以前から気になっていた「土直漆器」さんの工場を見学させていただいたのです。そこで目にしたのが、「越前漆器」。
それは、本物の美しさとの出会いでした。
「土直漆器」さんは、先人から受け継ぐ伝統の技を重んじながらも、自由な発想でものづくりをしている工場です。そこで生み出される「漆器」は、若い職人さんの発想やデザインを確かな技術力で形にした、美しく力強いものばかり。それらからは、「今の時代を感じながら、新しいものを作りたい」という作り手さんたちの熱い思いが伝わってくるよう。
感動した開発チームメンバーは、「やっぱり漆の器を作りたい!」と強く思ったそうです。
日本の食事は、まず薄味の汁物から食べるのがマナーです。
その大切な一口目こそ、ぜひ本物の漆の器で味わってもらいたい。
テーブルウェアを手掛けるブランドに必要なアイテムとして、いつかは「汁椀」を商品化したい。そう思っていたチームメンバーは、すぐに「土直漆器」さんと商品開発をスタートすることになりました。
縄文時代から続く伝統 日本は漆器づくりに適した国
日本には、「青森の津軽塗」、「福島の会津塗」、「石川の輪島塗」などたくさんの漆の産地があります。実に23もの産地が「伝統工芸品」として指定されているのは、いかに日本が漆を使ったものづくりに向いているかを示しているかのようです。
実際に「漆器」の歴史を紐解くと、なんと約一万年前の縄文時代の土壌からも漆の道具が出土しているとのこと。このことからも、「漆器」は他の工芸品や器のように諸外国から渡来した技術ではなく、日本に起源を持つ純粋な伝統工芸品であることがわかります。
考えてみれば、日本の国土はその67%が森林。その豊かな自然の恵みを受けて、水を汲み、火をおこし、道具を作る。そのうち木の器が生まれ、染色技術が発達し、加工の技術が磨かれる。そんな自然から生まれたもののひとつとして、「漆器」も存在しているのでしょう。
せっかくなら、口に入れても安心な自然なものの方がうれしい。
日本の歴史や環境の中で生まれた、伝統的な技術を大切にしたい。
様々なことを学び、今はそう考えるようになってきました。
実はそれほど使いにくくない? 耐久性にも優れた「漆器」
「漆器」は扱いにくいもの…私たちはいつの間にかそう思い込んでしまっていますが、本当にそうなのでしょうか。実は「漆器」は食器として非常に優れたものなのです。
「漆器」は木や紙などに漆を重ね塗りしたもの…とお話ししましたが、こうすることで元の素材の耐久性が上がります。漆は固まれば丈夫な被膜となり、酸や油にも溶けることはありません。また、近年の科学的検証によって、漆は抗菌性にも優れていることが実証されています。
お正月の三が日、漆のお重におせち料理を盛り付けることは、美しく見栄えがするだけでなく、料理を長持ちさせるためでもあった…実はとても理にかなったことだったのですね。
「Homeland」の汁椀の美しいデザイン
「Homeland」のお椀は、福井県鯖江市河和田を中心とする「越前漆器」と呼ばれる場所で作られています。
「土直漆器」さんの工場では、異なる工程を担う職人さん同士が盛んに交流し、細かな意思疎通を図りながら作業を進める、というのがスタイル。工場内で活発なコミュニケーションが行われることで、クリエイティブな発想が促され、新たな挑戦にも取り組みやすいのだといいます。こんな環境で生まれた「Homland」のお椀は、多くの職人さんたちのこだわりが詰まっています。
本漆だからこそのしっとりとした質感。
欅の木目の美しさを生かす「拭き漆」という技法で塗られています。
漆を塗ってはふき取るという作業を繰り返すことで、独特のツヤ感が生まれ、また素材の耐久性が高まります。
切り出しで付けられた高台の付け根には、ちょうど指がフィットするくびれがあるので、器をしっかりと包み込むように持つことができます。食事の味を繊細に感じ取れるよう、口の部分は極限まで薄く形取られており、口当たりも柔らかです。
その意匠はそのまま見た目の美しさにも生かされています。
お手入れも、毎日使う器であれば、付け置きをしなければOK。他の食器と同様に、普通に洗って拭いてのお手入れで問題ありません。ぜひみなさんも、本物の漆の器を毎日の食卓に取り入れてみてください。