ビールがもっと美味しくなる!

「うすはりグラス」の工場を訪ねて vol.2

column・2023.3.14

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うすはりグラスができるまで

齊藤さんに連れられて、私たちが最初に訪れたのは、1階にある材料保管場所。ここに置かれた細かな白い粉がガラスの主原料です。松徳硝子では、ガラスの透明性をあげるため、通常食器にはなかなか使われない、不純物が非常に少ない光学レンズ用の砂(ハイシリカ)を使っているそう。

「飲みものというものは、ビールにせよ、ワインにせよ、みんな色が違うでしょう。私たちは、まずはそれを目で楽しむことが大切だと考えています。となると、ガラスは透明であればあるほどいい。光学レンズ用の砂は高価ですが、そこはこだわりのひとつです」

1日に製作するのは、1400〜1500点のガラス製品。その中には、作る過程で破損したり、最終的に基準に達さず、販売用から外されるものもでてきます。

「そのような不良率は、なんとか2割までに抑えようと日々奮闘しています(笑)。でも、そうして弾かれたものも決して捨てることはせず、もう一度溶かしてリユースします。陶芸製品などと違って、ガラスは高温で溶融しても材料の組成が変わらないから、繰り返し使うことができるんですよ」

窯で溶けたガラスを巻き取り、型で形を整え、息を吹き込む

材料の納入場所や出荷用スペースを通り抜け、いよいよ工場の2階にある、ガラスを溶かす大きな窯の前へ。それぞれの窯の前で、2〜3人ずつチームになった職人さんたちが作業をしています。溶かしたガラスを慣れた手さばきで棹に巻き取り、空気を吹き込み、型に入れて成型していく姿はさすがの手際の良さ。ドロドロに溶けた熱いガラスはみるみる形を変えていきます。

「私たちは、大きさも厚みも全部決まっている『規格』に合わせてガラス製品を作り続けています。気温や湿度によって溶け方も固まり方も変化していくガラスで、同じものを作り続けるのは実はすごく難しいこと。ずっと煮込み続けている鍋から、同じ状態のスープを取り出し続けるようなものです。ですから私たちが『腕のいい職人』と言う時、それはどんな状況下でも高い品質で同じものを数多く作れる人のこと。規格通りの商品が並ぶ様子には、工業製品ならではの美しさを感じるでしょう」

出来上がったガラスを冷やし、不要な部分を切り落とす

職人さんたちによって成型されたグラスは、およそ80分かけてゆっくりと冷やされていきます。「昼休み前に入れた分がそろそろ出てきますよ!」と、齊藤さんが指し示した機械の中には、手前から奥までぎっしりと「グラス未満」の商品が並んでいます。

しっかりと冷ました後は、また別の職人さんが、グラス部分と棹との接続部分を切断する作業に入ります。まずはぐるっと一周「キズ線」をつけ、その線に沿ってバーナーで炙ると、不要部分がするりと切り離されます。

「これ、何気なくやってるように見えるでしょう? でも実は、そもそものキズ線が均一にうまく引けていないと、きれいな断面に切断できないんです」

なるほど、こともなげにこなしている作業の中に、職人さんならではの経験や勘がギュッと凝縮されているのが「うすはりグラス」の製造工程。こんなものづくりの秘密は、ポーカーフェイスで働く職人さんたちの動きの中にまだまだ隠されていそうです。さらにこの後も、飲み口となる部分を手作業で研磨し、さらにそこでできた角を再びバーナーで炙って滑らかするという、細かな作業が続いていきます。

「手作りで、厚みがバラバラなのを整えていくんです。でも、熱いガラスには直接触れない。だからひとつひとつ目で見極めて、加減しながらバーナーで熱をあてているんです。うすはりグラスは薄さが命だから、ほんの一瞬の判断ミスが命取り。熱をあて過ぎれば溶けてしまいますからね」

最後は丁寧に検品! これでようやく完成します

こうして出来上がったグラスは、専門スタッフの厳しい目で検品がなされます。厚みはもちろん、形状、重量、材質の状態等、そのチェック項目は数十にも及ぶそう。

「薄いからこそ粗が目立ち、ごまかしがきかないのがのこのグラス。『うすはりグラスで飲むと美味しいって聞いたけど、普通のグラスと変わらないじゃん!』なんて言われたら、私たちのブランドは崩壊してしまいますから、チェックは最も難しいです。緩すぎてもダメ、厳しすぎても商売として成立しません。」

シンプルな形に1mm未満という極限の薄さ。その薄さゆえに唇の上でも存在感を感じさせず、飲みものの香りも味わいもストレートに口元へ運んでくれるのが「うすはりグラス」。職人さんたちが丹精込めて作っている姿を目の当たりにした後は、余計にその存在が特別に感じられます。

「私たちはガラスを専門に扱っている会社ですが、別に特殊なことをしたいわけじゃないんです。ただ、『いい器を使うと、ご飯がもっと楽しくなるよ!』ということを伝えていきたいだけ。原材料が調達しにくくなっていたり、燃料費が想像を超える高騰をしていたり、ガラス業界では後継者不足の問題があったり、課題は山積みではあるのですが……。それでも美味しいものが好き、食べるのが好き、という人たちに喜んでもらえるものづくりを、今後もして行けたらと思っています」 

素敵な食卓と、ガラス業界の未来のために働く松徳硝子のみなさん。グラスづくりの作業は夕方で終了するものの、その後は翌日に使うためのガラスを交代で溶かす作業が始まるのだそう。ガラスとの付き合いは365日、昼も夜も途切れることはありません。

改めて、たくさんの人の手と熱い思いによって生み出される「うすはりグラス」に感激しながら、私たちは工場を後にしたのでした。

飲みものを美味しく飲めることはもちろん、作り手さんたちの想いがこもった「うすはりグラス」。「購入は、なるべく実際に目で見たものを、店頭でお求めいただきたいです」と齊藤さんもおっしゃっていますので、お近くの方はぜひ、TIMELESS COMFORTの店頭でご覧ください。

工場見学
「うすはりグラス」の工場を訪ねて vol.1
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